研究内容

疲労破壊およびき裂進展に関する研究

一回の負荷では破壊が生じないような荷重でも,それを何回も繰り返していると破壊が生じます.これを疲労破壊といいます.実際の構造物での疲労破壊は大きな事故を引き起こすことから,疲労破壊を防ぐことは安全のために重要です.疲労破壊はき裂の発生および進展によって生じます.本研究室では,航空機や燃料電池自動車,発電プラント,ゴルフクラブなどで用いられている材料の疲労破壊およびき裂進展の研究を行い,破壊メカニズムの解明や疲労強度向上手法の開発を行うことで、社会の安全に貢献します.

特に,超音波疲労試験を用いた疲労強度評価に力を入れています.超音波疲労試験とは,試験片を超音波と共振させることにより20 kHzという高速度で疲労試験を行う方法です.これにより,従来では数カ月かかっていた実験を数日で行うことが可能となります.これを用いて,超高サイクル疲労寿命や極低速き裂進展を評価します.

また,近年では,実験を行わなくてもシミュレーションによって疲労寿命を予測する技術が注目を集めています.そのため,シミュレーション技術の開発も行っています.

 

インデンテーション法を用いた局所力学特性評価に関する研究

配管などの溶接部の力学特性や電子部品に用いられている薄膜の力学特性を把握することは,製品の安全のために重要です.しかし,溶接部や薄膜の引張試験を行うことは困難です.本研究室では,硬さ試験やインデンテーション試験を用いた局所力学特性評価法を検討しています.特に,複数圧子法という手法を用いて局所的な応力ひずみ関係の推定手法を提案しています.それにより,引張試験を行うことができない溶接部や薄膜の応力ひずみ関係を推定します.また,従来よりもさらに薄い膜や層の力学特性を評価するために,X線回折法を用いた評価法も検討しています.

 

マルチスケール実験およびシミュレーションに関する研究

材料に負荷をかけると,肉眼では大きな変化が生じていなくても,ナノ・マイクロスケールでは様々な変化が生じます.そのようなナノ・マイクロスケールで発生する現象によって,材料の破壊は引き起こされます.しかし,ナノ・マイクロスケールの現象を観察するのは簡単ではありません.そこで,ナノ・マイクロスケールの現象を明らかにするための実験およびシミュレーション方法を開発しています.

例えば,顕微鏡下での材料試験によりマイクロスケールの現象および変形挙動を観察したり,透過型電子顕微鏡を用いてナノスケールでの組織を観察したりします.シミュレーションを用いた研究としては,原子1つ1つの運動をコンピュータ上で再現する「分子動力学法」,転位の運動をシミュレーションする「転位動力学法」,結晶方位による変形異方性を考慮できる「結晶塑性有限要素法」の研究を行っています.以上のようなナノ・マイクロスケールの実験およびシミュレーションを用いて破壊メカニズムの解明に挑みます.

 

人工知能を用いた損傷評価方法の開発

橋や化学プラントにおいて,腐食の検査は安全のために重要です.しかし,腐食検査には大きな労力がかかります.そこで本研究室では,人工知能を用いて画像から錆を自動検出する技術の開発を行っています.ドローンと組み合わせることで,腐食検査の高効率化を目指しています.また,破壊事故が発生すると破断面から破壊原因を推定します.しかし,破断面の観察には高度な専門知識が必要です.そこで,人工知能を用いて破断面から破壊機構を自動判別する技術の開発も行っています.