はじめに

私達は生活に必要なエネルギーを,化石燃料や水力・太陽光等自然から得られるエネルギーといった一次エネルギーから生み出しています. 日本では年間約1TWhにものぼるエネルギーを発電していますが,この大部分のエネルギーが廃熱として捨てられています. この廃棄されているエネルギーを有効に利用するために,熱を貯め,効率的に輸送する技術(蓄熱・熱輸送技術)の発展が求められています. 我々の研究室では,主に蓄熱・熱輸送技術に関する諸現象に関して,熱力学・伝熱工学等を基礎として,実験的,解析的に研究をおこなっています.

アイススラリー

アイススラリーを利用した物体の”加熱”

氷粒子を大きさ約0.2mmという微細な粒子状で液中に分散させた, アイススラリーと呼ばれる流体を利用して,物質の高効率な加熱への応用に取り組んでいます.
これまで,アイススラリーは主に物体の冷却に用いられてきましたが, アイススラリーが環境・人体に優しいことから,生鮮食品などの加熱への応用が期待されています.

アイススラリーを用いた加熱を行う場合,冷却する場合に比べ,伝熱速度がどうなるか明らかにする必要があります. また,スラリーは冷却されることになるため,冷却対象物への固着等の問題が想定されます. そのため,アイススラリーの凝固挙動について明らかにすると共に,固着を防ぐような条件を明らかにする必要があります.
我々の研究室では上述した要素を明らかにするため,アイススラリーの伝熱・凝固特性について研究を行っています.

アイススラリー
アイススラリーの外観と氷粒子の顕微鏡写真



ハイドレート

クラスレートハイドレートの基礎特性の解明

クラスレートハイドレートとは,水分子が水素結合により作る立体籠状構造の中にメタンや二酸化炭素などの他の分子が取り込まれてできる,包摂化合物のことを言います.日本の近海にメタンハイドレートとよばれる燃料が豊富に埋蔵されていることは一般にも広く知られています.ハイドレートは,海底下の地層から採掘して燃料に利用するだけでなく,ガスを輸送する際の低コストで安全な体積圧縮方法としての用途にも有用です.更に,ハイドレートによっては多量の潜熱を有するものもあります.ハイドレートをスラリー化することによって流動性を持たせることにより,蓄熱・熱輸送媒体としての利用,天然ガスの貯蔵・輸送システムの効率化が期待されます.しかしながら,ハイドレートは核生成の速度が非常に遅く,過冷却を伴いやすいことが問題となっています.

我々の研究室では,TBAB(テトラブチルアンモニウムブロミド)ハイドレートと呼ばれる準包摂水和物の核生成特性についての研究に取り組んでおり,TBABハイドレートのみならず,他の物質の核生成に寄与する因子を明らかにすることを目指しています.
また,TBABハイドレートには下図に示すように空のケージが存在し,そのケージ内に二酸化炭素等のガスを取り込むことができます. そのため,ガス分離技術への応用も期待されています.

TBABハイドレート
TBABハイドレートの結晶構造



エマルション

エマルションの流動・伝熱・過冷却特性

通常,油と水は混ぜ合わせても時間が経てば上下に分離してしまいます.しかし界面活性剤を使い混ぜ合わせることで, 油を粒子状で水中に分散させることができます(その逆も可).また,油と水と界面活性剤の入った液体に機械的なせんだん力を加えることで,油を細かい粒子状 にし,油と水が見掛け上混ざり合ったかのようにすることができ,時間をおいても分離せずに安定させること ができます.このように油と水が分離しない状態になったものをエマルションといいます.化粧品や牛乳もエマルションの ひとつです.

エマルションは,分散させる油に相変化物質と呼ばれる固液相変化に伴う潜熱が大きな物質を選ぶことで, 高機能な熱輸送媒体として利用することができます. 我々の研究室では,機械のせん断力を利用した機械的乳化法,界面科学的手法の1つであるD相乳化法を 用いて,高機能なエマルションを生成し,管内または矩形容器内における流動特性,伝達特性について研究を行っています. また,エマルション中に分散した油粒子は過冷却を伴ってしまうため,油滴粒子の過冷却特性,核生成促進方法についても検討を行っています.

エマルション
相変化エマルション

伝熱シミュレーション
マイクロチャネル・矩形容器内におけるエマルションの伝熱シミュレーション



数値解析

フェーズフィールド法を用いた伝熱シミュレーション

アイススラリーやエマルションといった固液・液液混相流の伝熱現象は,空調,食品など様々な分野で生じる現象であるにもかかわらず,その基礎的な特性は十分に把握されていません. しかしながら,実験による検討には限界があるため,数値解析によるシミュレーションを行い,詳細な伝熱メカニズムの解明を目指しています.

PFM
PFMによる液液二相流の伝熱シミュレーション