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課題 ポンプ水車のS字特性
背景 ◎ポンプ水車の用途
 ポンプ水車とは同一装置で水を汲み上げるポンプと,発電に用いられる水車の役割を果たすターボ機械である.ポンプ水車が主に用いられる揚水発電では,電力需要が高い時間帯である昼間に上部貯水池から水を流すことで発電し,電力需要が低い夜間に下部の貯水池から水を汲み上げ位置エネルギーとして蓄電することで電力の損失を抑えている.世界の電力の需要は年とともに急激に増大していて,電力需要の過不足のバランスをとるうえで揚水発電所が最も適している.

Figure 1. 揚水発電

◎ポンプ水車の構造
 ポンプ水車はケーシング,ガイドベーン(案内羽根),ランナ(羽根車)で構成されている.水車運転の際は入口から進入した水がガイドベーンにより流れを整えられ,ランナに進入する.ガイドベーンは開閉可能で,開度によって流量の調整を行う.進入した水によりランナが回転し,発電を行う.ポンプ運転の際はランナを逆回転させることで水を逆向きに流している.実際はガイドベーンの外側に静翼があるが,本研究ではないものとしている.


Figure 2. ポンプ水車

目的 ◎S字特性とは
 ポンプ水車はポンプ性能を優先して設計されるため,通常の水車では起こらないポンプ水車特有の問題が起こる.その1つがS字特性と呼ばれるものである.図3のグラフでは横軸は回転数,縦軸は体積流量と見ることができる.急停止時にガイドベーンを閉じて流量を減らし回転数を下げていくと逆流が順流を上回ったときに回転数が上昇し,水車として運転しているにもかかわらずポンプとして作用してしまう現象である.この際に発電所全体を揺らすほどの大きな振動が発生し,問題となっている.揚水発電所は山間部にあるため落雷による緊急停止が多く,予めどのような特性曲線を描くか把握しておくことが重要である.

Figure 3. S字特性

◎S字特性モデル
 2022年にS字特性モデルと呼ばれる式を提案し,従来は2つの楕円式を用いてS字特性を表していたが,1つの式で表せるようになった.数値計算や実験結果から最小二乗近似を用いてS字特性を描くことができる.数値計算に時間がかかる,実験装置がない場合でも数値計算結果が少しあればS字特性を描くことができるようになった.


Figure 4. 従来モデルとS字特性モデル



Figure 5. 従来モデルとS字特性モデルの式

上付き添え字のtは水車(turbine),pは(pump)を表す.S字特性モデルでは数値計算を用いて水車入口の逆流量比γ[-]を求め,従来モデルから入口周方向速度係数φ_1[-]を求めることでS字特性を描くことができる.

方法 ◎模型実験
 図7に実験装置全体の概略図を示す.タンクに水を溜め,ブースターポンプにより流れを生じさせる.流れにより水車が回転し,その際に水車前後の圧力とランナのトルクを測定した.ランナは図8のような3Dプリンターで作成したものを用いた.この模型実験は数値計算結果の妥当性検証の為に行った.


Figure 6. 実験装置


Figure 7. ランナ
◎数値計算
 数値計算には,流体解析ソフトANSYS-CFX 2025 R1を用いた.基礎方程式は3次元連続の式及び3次元非圧縮性Navier-Stokes方程式であり,有限体積法による3次元非定常計算を行った.乱流モデルはSSTである.


Figure 8. 計算モデル

結果 ◎実験結果
 図9,10,11にそれぞれ実験で測定したトルク,圧力から算出したトルク特性,圧力特性,S字特性を示す.図11において横軸は回転数,縦軸は体積流量と見ることができる.


Figure 9. トルク特性


Figure 10. 圧力特性


Figure 11. S字特性

◎数値計算結果
 流量120 L/minでのシミュレーションのみ行ったため,S字特性のグラフは作成できていない.図12にAnsysで作成した圧力分布の時間変化の動画を示す.


Figure 12. Ansysより作成した圧力分布の時間変化動画