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課題デトネーションについての研究
背景  デトネーションは亜音速燃焼(デフラグレーション)から超音速燃焼への遷移(DDT:Deflagration to Detonation Transition)によって発生することがある.


燃焼機関に応用するとき,熱効率を高めるうえで,このDDTに要する助走距離をいかに短縮するかが重要な課題である. これまでの研究では,連続的に配置された複数の障害物がDDTを促進する例が数多く報告されている.しかしどのような障害物の形状や配置間隔が最適なのか」については未解明な部分が多くある. そこで本研究では,まず単独の障害物を対象とし,その配置位置や形状が火炎加速およびDDT過程にどのような影響を与えるかを調べた.
目的 デトネーション助走距離を短縮するために,適切な障害物配置と形状の探索と促進するメカニズムの解明
方法  基本方針としては,障害物が流れに与える擾乱(特に渦)に注目ことである. 障害物によって生じる渦が燃焼波を乱流化させ,DDT 過程を促進すると仮定し,障害物形状と配置位置をパラメータとして,どの程度燃焼加速に寄与するか検討する.
 配置位置については,点火位置から 50 mm(層流火炎がまだ発達しきっていない段階)と点火位置から 150 mm(火炎がある程度発達した段階)に設定した. これは,障害物が無い場合の火炎挙動を事前に調べ,火炎進展が大きく異なる2つの位置を選んだ. 形状については,渦が生じやすい矩形と,生じにくい円形を基本ケースとし,角部の影響を確認するため,前縁だけ角/後縁だけ角のバリエーションも検討した. 円形の場合,障害物が流路を狭める範囲が矩形より小さいため,この差を評価すべく障害物幅もパラメータとした.


 数値シミュレーション条件は高さ 10 mm(形状・幅は条件ごとに変更)の障害物を設置した初期条件温度 300 K,圧力 100 kP,当量比 1 の水素酸素予混合気に満たした全長 1016 mm,高さ 30 mmの燃焼管である.
 評価方法は以下に示している.
・DDT助走距離の短縮量
 最適な障害物条件を探るため,無障害物に比べて「どれだけ助走距離が短縮されたか」を指標とする.
・火炎進行位置に対する火炎速度の評価
 デフラグレーション段階の障害物影響を可視化するため,縦軸をマッハ数,横軸を無次元火炎先端位置としたグラフを作成. 無次元火炎先端位置は以下の式で定義.


 デトネーションセルサイズ,層流火炎帯厚さ,燃焼管高さはいずれも初期条件や幾何学スケールを表し,DDT助走距離と高い相関が示唆されている. これらを一括で扱うことで,現象を簡潔に捉える狙いがある. 以上の理由から,この無次元数を用いて火炎伝播を比較・評価する.
・局所爆発の発生メカニズム解析
 局所爆発の発生位置がDDT助走距離に直結するため, 物理量のコンター図(圧力・温度・渦度など)を追跡し,局所爆発がどのように生じるかを詳細に調べる.
結果  1. 助走距離の短縮量
・𝑑=150mm,𝑤=10 mm の矩形障害物で最も短縮効果が高い
・𝑑=50 mm の場合,短縮効果自体は大きいが,ばらつきが大きい
・𝑑=150mm の場合,短縮効果は少し小さいが安定している
 ことが分かった.


2. 火炎進行位置に対する火炎速度の評価

I. 配置位置による影響
𝑑=50mm
・障害物後流の火炎速度が大きくばらつきやすい.
・局所爆発の発生位置をみると,火炎先端が尖っている部分で生じるケースが多い.
・発達途上の火炎が障害物に当たると,小さな変化が大きく増幅されて火炎速度やDDT助走距離にばらつきが出ていると考えられる.
𝑑=150mm
 火炎が障害物に到達する前に既に音速近くまで加速しており,その後障害物の閉塞作用で火炎速度が一旦落ちる. これにより運動エネルギーが内部エネルギーに転換し,局所爆発が発生しやすい状況を生み出したのではないかと推測した. この場合,障害物の幅や形状による差は比較的小さく,局所爆発の位置も障害物後流ですぐに起こる傾向が強い. 特にd=150mm,w=10mm の矩形障害物は,火炎が障害物を通過する前に局所爆発が生じた.これは他のケースより強く火炎を阻害し,より早期に閾値に達した結果だと考えられる. 今後「内部エネルギーや圧力の極大値を比較」「障害物付近の質量流量を評価」などで検証することが必要である.




II. 形による影響
・𝑑=150mm では形状差があまり大きく表れないため,形状の影響は d=50mm の方が顕著である.
・前縁に角を持つ障害物: 障害物付近で局所的な火炎速度ピークが現れる.
・後縁に丸みを持つ障害物: 局所爆発前に徐々に加速していく傾向が見られる.



III. 幅による影響
 幅が大きいほど常に火炎速度ピークが高いという単純な線形関係にはならなかった. たとえば幅が大きいにもかかわらず,形状との組み合わせや火炎の到達時刻など他の要因で加速パターンが変わり,結果的にピークがさほど高くならないケースもある.


3. 局所爆発の発生メカニズム解析
局所爆発直前の物理量(圧力・渦度・温度など)のコンター図を解析したところ, 火炎先端付近に小さな渦が生じている箇所で局所爆発が起こるケースが多いことがわかった. これは渦によって火炎反応帯が湾曲されたり,未燃気が巻き込まれたりすることで,反応が激化され,局所的な高温高圧のホットスポットによって局所爆発が点火されると考えられる.
渦発生の原因については, 高い圧力勾配がある領域で渦度が生成される(Croccoの渦度方程式などからも示唆される)ことが考えられる.


 コンター図を確認したところ,火炎反応帯に圧力波が交差する付近や,火炎速度方向が急激に変化する付近で圧力勾配が大きくなり,渦が生じやすい. 障害物の配置や形状が,どの程度この圧力勾配に影響を与えているかは現状まだ十分に解明できていない.さらなる解析・検討が必要である.