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課題 | プラズマアクチュエータ |
背景 |
近年,水や空気を駆動させるデバイスとして電気流体デバイスが注目されている.電気流体デバイスとは,電極間に電位を与えることにより,流体が電場によるクーロン力を受けて加速され,流れが生じる現象を利用したデバイスの総称である.プラズマアクチュエータ(以下:PA)は,電気流体力学的作用により,雰囲気気体の流れを誘起する流体制御デバイスの1つである.従来の流体制御デバイスと比較すると,羽根車やモータなどの機械的可動部が不要なため構造が単純で,制御入力に対する応答が高速である.一般的なPAの一つに,誘電体バリア放電式プラズマアクチュエータと呼ばれるものがある.
誘電体バリア放電プラズマアクチュエータは,通称DBD-PA(Dielectric Barrier Discharge Plasma Actuator)と呼称され,図1のように,電極構造は2枚のシート状の電極で誘電体を挟んだものとなっており,小型で平坦な形状をしている.高電圧高周波数交流を印加することで誘電体表面に放電が生じ,それにより流れが発生する.構造物に貼り付けることで剝離低減等の効果があり,航空機翼における剝離の抑制を始めとした多くの研究例がある.ただし欠点として,実際に剥離を抑制するのに十分な流速が得られないことや,誘電体の消耗による寿命の短さが挙げられる.
そこで,これらの欠点を改善したデバイスとして,三電極プラズマアクチュエータ,通称TED-PA(Tri-Electrode Plasma Actuator)が提案されている.このデバイスは,図2のように,DBD-PAの上部電極の後方に新たな電極を1つ追加した構造をしており,2枚の上部電極と1枚の下部電極,加えてそれらに挟まれた誘電体から構成される.一方の上部電極(以下:AC電極)に数kV,数kHzの交流電圧を印加し,もう一方の上部電極(以下:DC電極)に数kVの直流電圧を印加すると,誘電体バリア放電により流れを誘起し,直流電圧による電場生成を利用して体積力を増大させることで,従来のデバイスと比べて高い流速を得ることができる.また,低電圧の交流を用いることで誘電体の消耗を抑えることが可能である.

Figure 1. 誘電体バリア放電式プラズマアクチュエータ(DBD-PA).

Figure 2. 三電極プラズマアクチュエータ(TED-PA).
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目的 |
本研究では,TED-PAの性能向上を最終目的とした,基礎的なデバイスの性能評価を,実験により行った.
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方法 |
本実験で使用したTED-PAの概略図を以下に示す.電極には銅テープを用い,寸法は図3の通りである.また,誘電体には耐熱性,絶縁性に優れたPTFEを用いた.印加電圧は,AC電極・下部電極間で,交流3.5 kV,4 kHzで固定し,AC電極・DC電極間で,直流0, 3, 5, 7, 9 kVの中で変化させて実験を行った.

Figure 3. TED-PAの電極構成.
以下に実験装置全体の概略図を示す.アクリル製のボックス内にPAを設置し,容器内をトレーサー粒子で満たして十分薄くした.次にレーザーを測定位置に照射し,断面を可視化した.本実験での座標は紙面垂直向きをy軸とし,レーザーの照射位置はz = 0 mm,すなわち電極中心を通る位置とした.照射されたレーザーは,アクリルボックス内に充満しているトレーサー粒子に反射してレーザーシートを形成し,断面の流れ場を可視化することが出来る.可視化した断面はハイスピードカメラを使用し,5,000 fpsの設定で
0.1秒間(500枚)撮影を行った.測定位置における流れ場でPIV(Particle Image Velocimetry)計測を行うことで,流れ場の速度ベクトルを求め,DBD-PAとCD-PAの流れ場解析を行った.

Figure 4. 実験装置全体の概略図.
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結果 |
DBD-PAとTED-PAのPIV結果を時間平均し,図5に示す.ただし,交流電圧はともに3.5 kV, 4 kHzであり,TED-PAにおける直流電圧の値は5 kVである.図3より,どちらのPAも,AC電極と下部電極の境目付近から流れが誘起されており,その部分の流速は大きい.TED-PAはAC電極からDC電極にかけて流速が大きくなることが確認できるが, DBD-PAが誘起する流れの速度はそれと比較して小さい.また,流れの下流に注目すると,TED-PAが誘起する流れは図中の下流まで速いことから,DC電極によって十分に加速されていることがわかる.

Figure 5. DBD-PAとTED-PAにおけるPIV結果の比較.
次に,各x方向位置における,DBD-PAとTED-PAの主流方向流速プロファイルを図6に示す.ここでは,AC電極と下部電極の境目をx = 0 mmとし,x = 5, 10, 15 mmの位置で結果を示した.ただし,流速は0.1秒間の時間平均である.図6より,特にyの値が小さい地点において,DBD-PAと比べ,TED-PAが誘起する流れが速い.また,TED-PAでは,x = 10 mm の位置で流速が最大になっていることから,DC電極によって流れが加速されたことがわかる.これらのことから,DBD-PAと比較すると,TED-PAでは流速が大幅に加速されることが示された.

Figure 6. DBD-PAとTED-PAにおける時間平均流速の比較.
DC電極に印加する電圧の値を変化させ,それに対してTED-PAが誘起する流れの主流方向流速の変化を図7に示す.図5より,(a)~(c)のすべての速度プロファイルで,直流電圧の値が大きいほど誘起される流れの速度は大きくなる.また,各x方向位置の流速を比較すると,特にx = 10 mmで流速が最大となる.これらは,印加する電圧を大きくすることで,AC電極近傍に高電場が発生し,クーロン力が増大したことによるものであると考えられる.

(a) x = 5 mm.

(b) x = 10 mm.

(c) x = 15 mm.
Figure 7. 電圧の変化による時間平均流速.
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