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課題デュアルベルノズルに関する実験と三次元数値計算
研究背景及び研究目的  現在ロケットノズルとして主に採用されているのは,ベル型ノズルである.ベル型ノズルの中でも特に,ノズルを軸方向に圧縮したCompressed Truncated Perfect (CTP) Nozzleや下流側を切断したTruncated Perfect (TP) Nozzleなどが採用されている.これらは,ある一定の高度帯で最大効率となるため,現在実用されているロケットは多段式ロケットとし,低高度と高高度でそれぞれの高度にあったベル型ノズルを使い分けている.しかし多段式ロケットは,単段式ロケットと比べ,複雑な機構や制御システムを有するため,製作コストが高くなってしまう.これを克服するために提案されたのが,デュアルベルノズルである.デュアルベルノズルとは,形状の異なる二つのベル型ノズルを軸方向に接合したものを指す.上流側の低高度用ノズルをベースノズル,下流側の高高度用ノズルをエクステンションノズルという.デュアルベルノズルを用いると,一つで低高度と高高度に対応できるためロケットを単段式にすることができ,製作コストを抑えられるという利点がある.デュアルベルノズルに関する研究は多くなされている.低高度モードから高高度モードへの遷移時に,接合点付近から下流側にかけて流れの剥離が発生し,剥離流がノズル壁面に再付着するため,ノズル壁面に対して垂直方向の横力が作用することはHagemann(1)らが明らかにした.また,石原ら(2)は,二次元デュアルベルノズルにおいて,上下非対称な剥離点が存在することを明らかにした.Proshchanka(3)らは,一定の低高度時において,デュアルベルノズル内で軸に関して非対称な剥離が存在すると結論した.しかし未だに,低高度から高高度への遷移時における剥離の周方向非対称性は明らかにされていない.剥離の非対称性は横力の非対称性につながりロケットの効率を低下させる恐れがあるので,三次元的に流れの剥離形態を調査する必要がある.そこで,本研究の最終的な目的は,運転モード遷移時におけるデュアルベルノズル内の剥離の周方向非対称性を三次元数値計算により調査することとした.

参考文献 : (1) G. Hagemann, M. Frey M., A critical Assessment of Dual-Bell Nozzle, journal of propulsion and power, Vol. 15, No. 1 (1999), pp. 137-143. (2) 石原秀記, 佐藤友大, 筒井雅博, 横田和彦, 伊藤基之, 二次 元デュアル・ベル・ノズル停止時の過渡的流れ特性の研 究, 日本機械学会論文集, Vol. 70, No. 692 (2004), pp. 138-145. (3) Proshchanka Dzianis, 米澤宏一, 佃宏明, 荒木香住, 木村 竜也, 横田和彦, 辻本良信, デュアルベルノズルの低高度 運転時における流体振動, 日本航空宇宙学会論文集, Vol. 60, No. 1 (2012), pp. 24-30.
方法  三次元数値計算を行うための前段階として,実験のデュアルベルノズル内の起動時流れを二次元数値計算で再現することを試みた.またその数値計算を実際に行う実験と比較して,二次元数値計算結果の妥当性を確認したのち,三次元数値計算を行う予定だ.
 図1に,本研究で用いた実験装置の概略図を示す.高圧タンク内部を約0.9 MPaとなるまで加圧,低圧タンク内部を5 kPa以下になるまで減圧した後,高圧タンクから試験部に設置したノズル供試体を経て低圧タンクに向かって吹く実験を行った(4).その際,作動流体は常温の乾燥空気とし,入口全圧と背圧,ノズル壁面に設置した三点における圧力をそれぞれ測定した.また,③のControl valve with air actuatorは,弁が開くまでの時間を設定でき,ここでは0.3秒とした.図1の試験部の詳細を図2に示す.マニフォールドからチューブを介して高圧室に高圧空気が流れ込み,ノズルに供給され流れがつくられる仕組みになっている.高圧室で入口全圧を測定した.背圧測定点は,ノズル流れの影響が少ない②の位置とした.図3に,本実験で使用したノズルの概形と,ノズル壁面の圧力測定点を示す.デュアルベルノズルのベースノズル,エクステンションノズル共にTPノズルとした.縦軸は,スロート半径を1として,ノズル半径方向位置を無次元半径で示している.横軸は,スロート位置を0としたとき,ノズル軸方向位置をスロート半径で除したものを示している.A,B,及びCの三点でノズル壁面圧力を測定した.圧力測定時のサンプリングレートは8192 Hzとし,10秒間の測定を行った.圧力変換器にはKULITE製CT-190-100Aを用いて測定を行い,圧力変換器で計測した電気信号をDCアンプ(TEAC製,SA-55)により増幅させ,ノズル壁面圧力の計測を行った.                                                                                        また,シュリーレン法を用いてノズル出口付近の流れを可視化する実験を行った.高速度カメラ(NAC製, ACS-3M16)を用いて,撮影条件は1000 fps とした. 図4に,今回使用したノズル内部の数値計算格子を示す. なお,今回の解析対象のデュアルベルノズルは,ベース部が フルサイズで膨張比が 9 となるように設計した Perfect ノズ ルを膨張比が 4 となる位置で切断した TP ノズル,エクステ ンション部がフルサイズで膨張比が 25 となるように設計し た Perfect ノズルを膨張比が 14.49 となる位置で切断した TP ノズルとなっている.デュアルベルノズル内部格子点数 は半径方向に 200 点,軸方向に 1000 点とした.全体の総格 子点数は約 46 万点である.なお今回は,格子を軸対象とし て二次元の数値計算を行った.ノズル外部領域は,実験環境 に合わせるため壁面条件とした. 数値計算には熱流体解析ソフトウェア ANSYS FLUENT 2023 R1 を使用した.軸対称二次元非定常計算を行った.支 配方程式は圧縮性 Navier-Stokes 方程式,乱流モデルは Spalart-Allmaras,作動流体は理想気体の空気とした.入口 と出口の境界条件を圧力境界条件とした.また実験の起動時 の流れを再現するために,入口圧力を 3 kPa から 0.3 秒間で 直線的に 600 kPa まで到達するように設定した.一方で出口 圧力は,起動時において入口圧力の変化量に比べると背圧変 化量は無視できるほど微小であったことから,3 kPa に固定 した.タイムステップサイズを 0.01 ms とし,30000 回繰り 返し計算させることで 0.3 秒間の起動時流れを再現した.(4)  

Figure 1. 実験装置概略図.


Figure 2. 試験部概略図.


Figure 3. ノズル断面と圧力測定点.


Figure 4. デュアルベルノズル計算格子.

参考文献 : (4) 小八木裕貴, デュアルベルノズルを用いた単段式ロケッ トの開発, 青山学院大学修士論文 (2022).
結果  本研究では,有次元の時間ではなく無次元の NPR に基づ いて解析を行った.なお NPR(Nozzle Pressure Ratio)とは, 入口全圧(𝑝𝑖𝑛)と背圧(𝑝𝑜𝑢𝑡)の比であり,次式で定義される無 次元数である. NPR = 𝑝𝑖𝑛/𝑝𝑜𝑢𝑡 [−]
実験で得られた,測定開始から終了までの圧力と NPR の 時間応答を図 5 に示す.左縦軸は入口全圧と背圧を,右縦軸 は NPR を示している.0 秒から 1.4 秒までは,まだ弁が開 いておらず入口全圧と背圧ともに真空引きした際のままの約 5 kPa となっている.1.4 秒から 1.7 秒までの 0.3 秒間の間に NPR が上昇した.本研究では,この間を“起動”とする.
 

Figure 5. 圧力とNPRの時刻歴応答.

 実験と数値計算ともに図 3 に示したノズルの A,B,C の 三点に測定点を設けて,圧力測定を行った.実験と数値計算 で得られた,起動時の A 点における圧力変動をそれぞれ図 6に示す.同様に,B 及び C 点における圧力変動を図7 ,8に示す.なお,横軸は時間ではなく NPR とした.縦 軸の Wall Pressure は,測定点の圧力(𝑝)をその時の背圧で除 した無次元数であり,次式のように定義した. Wall Pressure = 𝑝/𝑝𝑜𝑢𝑡 [−]  
実験で得られた壁面圧力のデータにばらつきが見られた. これはセンサー信号にノイズがのったことに依ると考えられ る.ばらつきをなくすため壁面圧力比を 100 点移動平均法に より平滑化したものを図に示す. 図6より,実験と数値計算によって得られた A 点にお ける圧力変動は,大まかな一致を示した.数値計算では, NPR が5付近になった後に,A 点の圧力勾配が負から正に 変わり,その後圧力は上昇し続けた.これは,NPR が 5 付 近になった時に,流れの剥離が A 点を通過したことによる と考えられる.実験では,NPR が 10 付近になった後に,A 点圧力が上昇していった.しかし,NPR が 10 に達するまで に,数値計算ほどの負の勾配ではないものの,若干の負の勾 配を示し,定性的な一致が確認できた. 図7より,実験と数値計算によって得られた B 点にお ける圧力変動は大まかな一致を示した.数値計算では NPR が 10 付近のときに,圧力比が 0.5 以下まで下がったが,実 験ではこの圧力比減少は確認されなかった.一方で,実験と 数値計算ともに NPR が 40 付近で圧力比が急激に下がり, その後直線的に増加した.その時に剥離が通過したことによ ると考えられる.この剥離点通過は,定量的に再現できた. 図 8より,図7と同様な結果が得られた.ここでも, NPR10 付近において,数値計算のみで急激な圧力比変化が 起こった.NPR40 付近では,両者ともに圧力比が急激に下 がり,その後単調増加傾向を見せた.実験の剥離点通過は, 数値計算により再現ができた.

Figure 6. 実験と数値計算のA点圧力.


Figure 7. 実験と数値計算のB点圧力.


Figure 8. 実験と数値計算のC点圧力.

 図 9 に,NPR が 1 と 10 から 70 までの 10 刻み毎のシュ リーレン画像を示す.NPR が上昇するにつれて,衝撃波が 徐々に大きくなり,最終的にフルフローになることが可視化 実験により確認できた.しかし,衝撃波位置を定量的に解析 し,数値計算結果と比較することはまだできていない.

Figure 9. シュリーレン画像.