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課題燃焼室温度がロケットノズルの性能に与える影響
背景  現在のロケットにはベル型ノズルと呼ばれる形状のロケットノズルが使用されている。このノズルは図1の様になめらかな曲線で設計されている。周囲圧の影響で一定の高度のみ推力が最大になる事が欠点とされている.


Fig.1. ベル型ノズル模式図.

 そこで考案されているのがデュアルベルノズルと呼ばれる形状である.これは図2の様にベル型ノズルを軸方向につなげた形状となっている.低高度では流れが変曲点の部分で剥離することで,通常のベル型ノズルと同様の流れとなり,高高度では周囲圧が減少することで流れが大きく膨張し,高い推力を生み出すことが出来る.


Fig.2. デュアルベル型ノズル模式図.

 デュアルベルノズル内の流れ場の調査は実験及び数値計算で広く行われている.通常ノズル内には高温高圧の気体が流れており,実験設備で流れ場を再現する事は困難である.よって常温の気体を用いた実験が数多く行われているが,気体の温度が剥離点の挙動や比推力にどういった影響を与えるのかは不明である. 
目的  本研究では,燃焼室温度が剥離点の挙動や比推力にどういった影響を与えるのかを調べた.
方法  燃焼室温度を300K,1500K,3000Kの三種類で数値計算を行った.300Kは常温の気体,3000Kは実際のロケットエンジンの燃焼室温度を模擬している.  計算条件として0.3秒間にノズル入り口全圧を3kPaから600kPaまで単調増加させた.対して背圧は3kPaで固定した.作動流体は空気とした.壁面はすべて断熱条件としている.  以下に今回使用した計算格子を示す.


Fig.3. 計算格子全体図.


Fig.4. 計算格子ノズル拡大図.

 常温の空気を用いた実験も行ったので,以下に実験装置全体の概略図を示す.


Fig.5. 実験装置の概略図.
結果  壁面圧力の計測点を図6に示す.図7,図8にそれぞれA点とB点での壁面圧力変化を示した.壁面圧力は背圧で割ることで無次元化した.横軸のNPRとは,入り口全圧を背圧で割った無次元数である.剥離点が計測点を通過した後に壁面圧力が単調増加する事が知られている.グラフより燃焼室温度が高い程剥離点が通過するNPRは大きくなった.よって,燃焼室温度が高い程剥離点の移動速度は遅くなったといえる.


Fig.6. 壁面圧力計測点.


Fig.7. A点での壁面圧力変化.


Fig.8. B点での壁面圧力変化.

 壁面圧力の実験結果と数値計算結果の比較を図9,図10に示す.  A点においては,数値計算結果ではNPRが10付近で圧力変動が起きたが,実験では計測されなかった.その後NPR40付近で数値計算と実験のどちらの結果でも剥離点が通過した.またNPR40以降でも,どちらの結果でも壁面圧力が単調増加した.よってNPR40付近からは数値計算結果と実験結果は高い一致を示しており,数値計算結果の信頼性は高いと言える.  B点においては,数値計算結果ではNPRが10付近で圧力変動が起きたが,実験では計測されなかった.NPR10からNPR40程度までは,どちらの結果も壁面圧力が1程度で変化しなかった.その後NPR40付近で数値計算と実験のどちらの結果でも壁面圧力が減少していった.数値計算では緩やかに壁面圧力が減少し,NPR50の時まで壁面圧力が減少した.対して実験ではNPR40程度で壁面圧力が急激に減少し,その後単調増加した.これは実験のNPRの上昇の仕方などの,実験条件を数値計算条件で再現できなかった事が原因だと考えた.NPR40以降では,どちらの結果でも壁面圧力が単調増加した.よって,剥離点が計測点を移動している時は結果が一致しなかったが,それ以外のNPRでは高い一致を示しており,数値計算結果の信頼性は高いと言える.


Fig.9. A点での壁面圧力変化の実験結果と数値計算結果の比較.


Fig.10. B点での壁面圧力変化の実験結果と数値計算結果の比較.

 エクステンション部における壁面剪断応力を図11に示す.ここで横軸はエクステンション長さで割ることで無次元化した.燃焼室温度が高くなる程,壁面剪断応力は大きくなった.壁面剪断応力は壁面での速度勾配に比例する為,燃焼室温度が高い程壁面での速度勾配が大きくなった事が分かる.これは燃焼室温度が上がる程,音速の値は大きくなり,速度の絶対値が増加したからだと考えた.


Fig.11. 壁面剪断応力の比較.

 比推力の変化を図12に示す.比推力は推力を質量流量と重力加速度で割った値である.しかし比推力は有次元の値であり温度の効果を含むため,温度の効果を無視する為に比推力を音速の値で割って比較した.グラフより,ノズルが起動し始める0.1秒までは燃焼室温度が高い方が比推力を音速で割った値は小さくなった.これは燃焼室温度が高い方が,剥離点の移動速度が遅い事が原因だと考えた.また,剥離点が通過した後については,燃焼室温度の違いによって差は見られなかった.


Fig.12. 比推力の比較.