カウンター カウンター
課題 ポンプ水車のS字特性
背景  揚水発電において,電力需要が大きい昼間は水を落とすことで発電し,電力需要が少ない夜間は水を汲み上げることで電力の損失を抑えている.そこで用いられているのがポンプ水車である.昼間は水車として運転し,夜間は逆回転することでポンプとして運転することができる.


Figure 1. 揚水発電.

 ポンプ水車はケーシング,ガイドベーン,ランナで構成されている.入り口から進入した水はガイドベーンにより流れを整えられ,ランナに進入する.進入した水によりランナが回転し,発電を行う.ポンプ運転の際はランナを逆回転させることで水を逆向きに流している.


Figure 2. ポンプ水車.

目的  ポンプ水車はポンプ性能を優先して設計されるため,水車運転時に通常の水車では起こらないポンプ水車特有の問題が起こる.その1つがS字特性と呼ばれるもので,ガイドベーンを閉じて流量を減らし,回転数を下げていく過程でS字のグラフを描いていくものである.横軸は回転数,縦軸は流量を無次元化したものに匹敵する.低流量域になると逆流が生じ,水車として運転しているにもかかわらずポンプとして作用してしまう.これにより大きな振動が発生する.
 2022年に統一特性モデルと呼ばれるこのS字特性の新しい理論式が提案された.7枚羽根ランナにおけるこの式の妥当性は検証されたが,羽根枚数を変更した際の妥当性に関しては検証されていない.そこで,9枚羽根ランナにおいてモデルを適用し,モデルの妥当性を検証する.9枚としたのは,効率が上がるとされているためである.


Figure 3. 7枚羽根ランナにおけるS字特性.

方法 ◎実験
 図4に実験装置全体の概略図を示す.タンク水が溜められており,ポンプにより流れを生じさせる.流れにより水車が回転し,その際に水車前後の圧力及びランナのトルクを測定した.ランナは3Dプリンターを用いて作成した.


Figure 4. 実験装置.


Figure 5. 9枚羽根ランナ.

◎数値計算
 数値計算には,流体解析ソフトANSYS-CFX 2023 R1を用いた.基礎方程式は非圧縮性Navier-Stokes方程式であり,有限体積法による3次元非定常計算を行った.


Figure 6. 計算格子.

結果 ◎特性曲線
 図7に実験結果による水車効率を示す.横軸は流量を設計流量で無次元化したものである.実際に運転される設計流量において,羽根枚数の増加により摩擦損失が増えたにもかかわらずほぼ同じ効率を維持することができた.これは性能向上と言える.


Figure 7. 水車効率(実験).

 図8に数値計算による水車効率を示す.こちらは設計流量において効率が向上した.ただ,流量パターンが少ないので今後数値計算を進めていく.


Figure 8. 水車効率(数値解析).

 図9に実験結果によるS字特性を示す.高流量域で入口半径方向速度係数がわずかに減少し,低流量域で入口周方向速度係数が上昇した.


Figure 9. S字特性(実験).

 図10に数値計算によるS字特性を示す.実験と同じ傾向のグラフを得ることができた.今後は流量パターンを増やし,より厳密なグラフとしていく.

Figure 10. S字特性(数値解析).