課題 |
ポンプ水車の低流量運転時における不安定現象
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背景 |
近年,風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー導入拡大に伴って,電力不足,電力の需給バランス変動による周波数変動への対応等の課題が生じている.これらへの対応として,揚水発電の有効活用の可能性について考えられている.揚水発電では,発電(水車運転)と揚水(ポンプ運転)の2 つの運転を1 台で担うことができるポンプ水車が用いられている.このポンプ水車は,落雷などの電気的なトラブルが発生すると発電負荷を遮断し,ガイドベーンを閉じることで,流量を減少させ,運転を緊急停止することがある.流量減少に伴い,水車ブレーキ領域から逆転ポンプ領域にかけて
流体振動が発生し,発電所を揺らすほどの大きな振動につながることが確認されている.

Figure 1. 揚水発電.
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目的 |
過去の研究で,流体振動発生時における定常性能曲線を調査した結果,S 字状の曲線を描くS 字特性が見られることが分かった.このS 字特性が見られる領域では,ポンプ水車内部に順流と逆流の同時発生や,剥離領域が生じて二次流れが発生するなど非常に複雑な流れになることが報告されている.
本研究では,ポンプ水車の羽根入口角が性能に与える影響を明らかにするために,羽根入口角の異なるポンプ水車を複数作成し,実験と数値計算の2つを行う.
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方法 |
◎実験
図2に実験装置全体の概略図を示す.実験装置は,主にタンクと2 つの遠心ポンプからなっている.本実験装置は,ブースターポンプによって水が汲み上げられ,タンクに蓄えられ,水車部を通過して,ブースターポンプに戻る循環式となっている.図2 に本研究で用いたポンプ水車の概略図と圧力測定点について示す.圧力測定点は,供試ポンプ水車の上流入口と下流出口の2点である.

Figure 2. 実験装置.

Figure 3. 羽根車.
◎数値計算
数値計算には,流体解析ソフトANSYS-CFX 2022R1を用いた.基礎方程式は非圧縮性Navier-Stokes 方程式であり,有限体積法による3次元非定常計算を行った.

Figure 4. ポンプ水車.
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結果 |
◎特性曲線
図4に,各羽根入口角度のトルク特性曲線を示す.実験・数値計算ともに,流量増加に伴い,トルク係数τは単調に増加するという傾向は一致している.このことから,数値計算結果は実験結果を定性的に捉えていると言える.また,ランナA 及びB ともに,流量比に対してトルク係数がほぼ同じ値を示しており,トルク係数は羽根入口角度に影響を与えないことが分かる.
図5 に,各羽根入口角度の 流量特性曲線を示す.横軸は単位落差あたりの回転数,縦軸は単位落差あたりの流量である.トルク特性曲線同様に数値計算は実験値を定量的に捉えられていることが確認できる.図4 のトルク特性曲線より,流量特性曲線では,実験・数値計算ともに単位流量が約120で無負荷運転状態(τ= 0 )となっていることが確認できる.実験・数値計算ともに,無負荷運転状態となる流量以下では,単位流量の減少に伴い,単位回転数の値が変化しない,または減少しS字状の曲線を描くS字特性が確認できる.ランナBと比較してランナAは,流量減少に伴う 単位回転数の増減を示しおり,より強いS字特性が表れている.

Figure 5. トルク特性曲線.

Figure 6. 流量特性曲線.
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