青山学院大学理工学部 機械創造工学科 超音波光学研究室

Ultrasonic and Optical Engineering Laboratory

現在行っている主な研究テーマは以下のとおりである.

主な研究テーマ

レーザスポレーション法を用いた非接触材料

タンク底板の腐食損傷量評価法の開発

Zero-Group velocityラム波計測システムを用いた接触状態評価

AEを用いた電気自動車用リチウムイオン電池の劣化検出

空中超音波センサを用いた非接触AE計測システムの開発

 産業機器の寿命を管理することは設備の安全性や経済的に重要な問題である。従来の機器を管理する手法は、一定期間使用した後に検査を行う時間型管理であったが、機器の寿命は使用する環境によって変化が生じることから時間による単純な管理は最適ではない。そこで機器の状態を常時監視し、異常を検知した時に検査を行う状態監視型管理が求められている。そこで,簡便に状態監視が可能な検査手法の一つとしてアコースティックエミッション法(Acoustic Emission 以下:AEと表記)が注目されている。しかし、AE計測で一般的に使用されているセンサは、グリースなどを接触媒体として用いて検査対象物に接触させるため、回転体のような稼働中の機器への適用は難しい。

 そこで本研究では,空中伝搬超音波センサを用いたAE計測システムの構築を目的とする。空中センサは材料内部から空気中に漏洩した超音波を計測するため、計測対象に接触させる必要がない。また、比較的安価であることから様々な機器の状態監視に使用が可能である。

リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く,メモリー効果(継ぎ足して充電を行った時に充電容量が低下する現象)も無いことから,小型電子機器で広く用いられており,電気自動車等への大型装置への応用研究も多く報告されている.しかし,リチウム電池の問題点として,繰り返し充放電に伴う充電容量の低下や電池の変形等がある.これらの現象をモニタリングし,電池の劣化を早期に検出する技術が求められているが,劣化検出に関する研究の多くが充放電に伴う電位や電流値を検出する手法であり,内部で発生した現象をリアルタイムで特定することは難しい.

そこで本研究ではAE(アコースティックエミッション)法を用いて,充放電中に電池内部で発生するAE信号を検出し,内部で発生している現象を推定する手法の構築を目的とする. 

リチウムイオン電池用負極材料の表面写真

一般的な空中超音波センサ

レーザスポレーション実験の様子

沿岸地域に林立する石油貯蔵タンクなどの底板部は土壌や雨水の侵入によって腐食している腐食が過度に進行した場合,内容物が漏えいし,危険である.現状,タンク底板は一度内容物を取り除き,検査院がタンク内部に入って超音波によって評価する開放検査が行われている.しかし,この手法は多くの期間や費用が必要であることから法律によって点検義務の無い1000kl以下の小型タンクではほとんど行われていない.そのため非開放による新しい検査法が求められている.

そこで本研究では,タンク底板を超音波を用いて非開放で評価する技術を検討している. 

SH波を用いた反射波計測実験風景

エネルギの伝搬速度が0であるZero-group velocityラム波(ZGVラム波)は板状構造物の弾性的な特性や板厚の変化に敏感であることが知られており,この波動を用いれば局所的な弾性的性質や厚さの変化を高感度に検知することが可能となる.一方,機械構造部品に軽量化に伴い化学的接着の要望が高いが,信頼性などに問題があり,工業的な部分での使用は限定される.また,スポット溶接や溶接などの接合方法においても接合むらなどの問題もある.しかし,接合部を評価する方法はあまり無い.

そこで本研究では,  ZGVラム波を用いて接合状況と接合強度の関係について評価する.

ZGVラム波を用いた実験の様子

AEを用いた研削用チップの特性評価

AE法を用いた保温材下腐食で発生する腐食損傷の定量評価

 保温材は高温流体が流れる配管においてエネルギーロスの低減のため施している.しかし,保温材と配管の間には雨水や海水などの塩化物を含んだ水分が侵入した場合,腐食の温床となる.この腐食はCUICorrosion Under Insulation)と呼ばれ,世界中のプラントで問題となっている.検査は目視によって行われるが,CUIでは保温材を一度取り外す必要があることから多くの手間と時間がかかる.そのため,保温材を取り外すことなく腐食の有無を評価することが工業界全体で望まれている.

 そこで本研究では,AE法を用いて腐食の有無を評価し,加えて腐食進展度合いを評価する手段を構築することを目標とする.

様々な工業製品では最終仕上げにおいて研削加工を行うが,その仕上げ制度は研削用チップの複雑な特性によって影響を受ける研削用チップは,ダイヤモンド砥粒,母材,バインダーを配合し,焼結によって作成する.このような複雑な構造を有する材料であるが,その機械的評価は3点曲げによる破壊強度(抗折強度)を用いていた.

そこで本研究ではAE法を用いて,研削用チップの強度評価のための新しい非破壊評価パラメータの提案を目標とする. 

AE計測システム

鋼板表面に生成した
錆の断面写真

 材料に付加価値を与える表面改質処理は様々な分野や材料に対して行われている.表面改質剤の機能性は表面層がはく離もしくははく落すると発揮できない.しかし,密着状態を評価できる手法がほとんどない.

そこで本研究室ではレーザスポレーション法を用いた表面改質幕の密着性の定量評価を行ってきた.その結果,密着力を評価できることがわかり,さまざまな表面改質処理をおこなった材料に対して適用している.

高温高圧水環境下で発生する応力腐食割れの評価

 応力腐食割れは腐食の中でもき裂上に進展することから構造物の強度を著しく低下させるうえ,その腐食速度が速いことから危険な腐食と言われている.応力腐食割れはさまざまな環境で発生するが原子力設備などの高温高圧水環境においても発生する.そのため,現在ではその機構の解明のためオートクレーブを用いた模擬環境下において応力腐食割れの感受性を評価が行われている.しかし,このような環境下で応力腐食割れの発生をモニタリングできるセンサは無い.

そこで本研究では,当研究室で開発した光ファイバAEモニタリングシステムを用いて,応力腐食割れ検出の可能性を検討している. 

光ファイバAEモニタリングシステム