材料強度学研究室について
教 授 小川武史
助 教 坂上賢一
材料強度学研究室の説明
近年,航空宇宙産業,電子デバイス開発などにおいて,材料強度学の知識を持った若い研究者が不足している.学生諸君からすると,材料力学や材料学に始まる材料系の研究は,古臭くてローテクの塊と思われているのではないかと危惧している.しかし,社会では違う.極めて高い安全性と経済性が求められる現代社会では,新材料を開発し,安全性を正確に評価することが,新技術のブレークスルーになっている.1970年代に花形産業で多くの人員が従事していた原子力産業は,材料強度研究が最も生かされてきた産業であるが,その技術者の人員は電子デバイスの開発グループに配置転換されている.何故かというと,一見関係のなさそうな電子機器産業においても,ミクロな配線が壊れないように設計できることが,製品開発成功の鍵を握っているからである.最近,地球温暖化対策の一つとして原子力が見直され,国内の原子力産業は復活の兆しがある.さらに,安心・安全な社会への要求から,材料強度学の重要性はますます高まっている.
材料強度学研究室の研究内容は,いずれも「材料の破壊」に関連している.我々の身の回りで生じる破壊は,いつも制御されない状態で発生する.制御されない破壊は,社会問題となり,決して望ましいものではない.研究の目的は,如何にして破壊を予測し,制御するかにある.そのために,制御された破壊を実現する装置,制御ソフト,観察手法を開発し,破壊挙動を解き明かすことにある.研究対象は,原子力や自動車などの疲労・応力腐食割れに関連した問題に加え,電子部品の接合問題や高分子材料の力学特性評価にも取組んでいる.個々のテーマは,電力会社やメーカーの協力を得て進められており,卒業研究の成果は産業界からも大きな期待を得ている.
研究室のルールについては臨機応変に決めているが,目的は「研究環境の向上」である.ルールが厳しすぎると息が詰まるが,甘すぎると楽な方に流される.ルールは研究室に所属した全員の行動によって作られると考えていただきたい.各自に要求されるのは研究成果であり,自己責任を重視する.研究発表会は,研究室内だけでなく,長研および米山研との合同発表会,都内の関連研究を行っている他大学の研究室(慶応,工学院,電通大,東工大,理科大等)との合同講演会も行っている.来年度の研究スタッフとしては,博士後期課程:1名,博士前期課程M2:6名,M1:3名が予定されている.多くの大学院生とともに研究活動を送ることになるが,すべての卒論生は独立した研究テーマに取り組む.すなわち,学部・大学院の全員について,1テーマ/1人である.
修士論文および卒業研究として実施されている研究課題は,以下のような分野から,各自に1テーマが与えられる.また,材料強度に関係する内容で,研究課題の希望があれば,可能な限り意向に沿うよう努力する.
(1) 原子力機器を製造している材料の疲労強度とき裂進展特性(溶接協会での共同研究)
(2) 混合モード負荷における応力拡大係数とき裂進展解析(溶接協会での共同研究)
(3) インデンテーション試験を用いた高分子材料の力学特性評価(三菱電機との共同研究)
(4) 電子部品の接合部と超微小材料の強度信頼性評価(富士電機・コベルコ科研との共同研究)
(5) コーティング材料の疲労強度と界面の微視的解析(トーカロとの共同研究)
(6) 接合部の局所力学特性および強度特性の評価(自動車技術会での共同研究)
(7) アコースティック・エミッションによる破壊機構の解析(長研との共同研究)
(8) 航空宇宙用先進複合材料の強度信頼性に関する研究(JAXAとの共同研究)
研究分野によってグループが形成されるが,基本的に各自独立した1テーマの研究課題に取り組むことになる.連携大学院(宇宙航空研究開発機構:JAXA)の小笠原俊夫先生(航空宇宙用先進複合材料の強度信頼性に関する研究)を希望する学生は,当研究室に所属して卒業研究の段階から,小笠原先生のご指導を受けることができる.
本研究室は2002年度から2006年度まで文部科学省のCOEプログラムにより,研究拠点大学の一員として活動を行ってきた.また,学術振興資金やハイテクリサーチセンター予算等によって最新の研究設備が導入されており,研究環境は決して同一研究分野の他大学に劣らない.卒業研究や修士・博士課程の研究で得られた成果は,下記のように論文として公表されており,産業界の役に立っている.下線は学生名を示している.材料強度の技術者・研究者として志を持つ学生とともに研究できることを望んでいる.他分野を志す学生にとっても,卒業研究で材料強度のセンスを身に付けておくことは必ず役に立つ.
連携大学院(小笠原研究室)進学希望者について
材料強度学(小川)研究室は,連携大学院・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小笠原研究室に進学を希望している学生に対して,共同研究を実施している(2名以内).すなわち,小川研究室の一員として,JAXAの研修生となって小笠原先生の指導も受け,卒業研究を実施する.連携大学院を希望している希望者は,小笠原先生に電子メールを送って予め見学および面接を受けること(ogasat@chofu.jaxa.jp).また,卒業研究履修申込票に明示すること.
最近の研究論文( は小川研究室所属の大学院生, は小川研究室所属の学部生)
(1) 二相ステンレス鋼の水素ぜい化割れ特性に及ぼす鋭敏化熱処理の影響(黒瀬啓介,長 秀雄,小川武史,竹本幹男),材料,日本材料学会,Vol.57, No.11,pp.1084-1090 (2008-11).
(2) ポリプロピレンのインデンテーション法によるクリープ特性評価(岡崎信平,坂上賢一,小川武史,坂本博夫),材料試験技術,日本材料試験技術協会,Vol.53, No.4, pp.273-279 (2008-10).
(3) 接触負荷を受けるダイヤモンドライクカーボン膜の破壊メカニズム(米津明生・中山朝之・小川武史),材料,日本材料学会,Vol.57, No.5,pp.474-480
(2008-5).
学会賞受賞( は小川研究室所属の大学院生, は小笠原研究室所属の大学院生)
(1)2005年5月23日 日本複合材料学会論文賞 炭化ケイ素繊維/エポキシ複合材料の電気抵抗変化によるひずみモニタリング(相澤志文,小笠原俊夫,小川武史) 日本複合材料学会誌 Vol. 30,No. 1, pp. 33-40 (2004).
(2)2006年5月27日 日本材料学会 日本材料学会論文賞 インデンテーション法におけるセラミックTiN薄膜の破壊機構解明とその強度評価 (米津明生,大野卓志,小川武史,竹本幹男), 材料,Vol.54, No.10, pp.1030-1035, (2005).
(3)2006年9月19日 日本機械学会 機械材料・材料加工部門 部門一般表彰(優秀講演論文部門) 3D-C/C複合材のせん断特性および繊維束界面特性評価(青木卓也,山根雄介,小笠原俊夫,小川武史,石川隆司)(日本機械学会年次大会講演論文集,Vol.1,pp.695-696(2005-9)