超音波疲労試験

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はじめに
 ギガサイクル疲労とは、109回の繰返し数を含む超高サイクル疲労を意味する。109回の荷重繰返しを100 Hzで行なうと116日、20 Hzでは1.6年を要する。従来の疲労強度評価では、107回の繰返し数で実験を打切り、疲労限度を求めていたが、アルミニウム合金では疲労限度と定義できず、107回時間強度を意味していた。明確な疲労限度を示す鉄鋼材料でも、内部起点の疲労破壊が生じる場合には、107回以降に疲労破壊が生じる。このように、107回は実験上の都合で決められた回数に過ぎない。超音波疲労試験では、20 kHzを用いるので、僅か14時間足らずで109回の繰返し数に達する。実際には、20 kHzで連続運転を行なうと試験片の温度が上昇し、疲労試験を継続できなくなる。そこで、超音波疲労試験は、間欠的な負荷を行なうことが多く、平均的な繰返し速度は遅くなる。
試験規格
 日本溶接協会では、 GCF小委員会(2008〜2011年)において、超音波疲労試験のラウンドロビン試験を行なっている。この成果に基づき、 日本溶接協会規格(WES 1112)が2017年に発行され、2022年に改訂が行なわれた。試験方法および繰返し速度の影響が詳細に解説されている(1)
試験機
 国内では、島津製作所から USF-2000が市販されており、マニュアルに従って操作を行なえば、超音波疲労試験を実行できる。ただし、試験片の共振を用いた実験であることから、一般的な疲労試験の常識と異なる点が多い。試験機のハードウエアは、 ブランソン社の超音波溶着機であり、DCX Sパワーサプライにピエゾアクチュエータとホーンを取り付けたものである。発振出力および発振時間等の設定、共振周波数の計測などは、アナログ電圧の入出力で行なわれるので、PCにより容易に制御できる。
疲労強度
 超音波疲労試験機を用いた疲労強度の研究は、2004年にUSF-2000を購入して開始した。本田貴久君が炭素鋼の実験を開始する一方で、高橋恭平君が超音波溶着機を使って試作を開始した。高橋恭平君は、日本溶接協会のGCF小委員会でオーステナイト系ステンレス鋼SUS316の超音波疲労試験を実施するため、試験機の自作を行なった。冷却チャンバーを用い、間欠運転を自在に設定できるようになり、SUS316の温度上昇を克服し、結果を 高橋恭平君の論文として発表した。降伏応力が597 MPaの2.25Cr-1Mo鋼では、超音波疲労試験により両振り軸荷重試験の疲労強度と同等の結果が得られることが 中澤達郎君の論文で明らかになったが、降伏応力が444 MPaの低合金鋼(SFVQ1A)では、超音波疲労試験の疲労強度の方が高くなることが 佐藤光博君の論文で示され、超音波疲労試験が危険側の評価となる可能性が示唆された。他の材料については、WES 1112に示されている(1)
 自作の超音波疲労試験機は、山本 徹君によって2008年に変動振幅負荷が可能になった。これを用いて、 石田 渉君と山本 徹君の論文では、試験片内部を進展する疲労き裂の進展速度を予測した。また、 中澤達郎君の論文では、超高サイクル域での累積損傷則を調べた。 稲富洋介君、重田翔平君、安河内菜摘さんの論文では、内部疲労き裂進展特性に及ぼす水素の影響を調べた。
 自作の超音波疲労試験機は、望月俊樹君によって2007年に平均応力付与が可能になった。この方法は、WES 1112に示されている(1) 佐藤光博君の論文では、疲労限度の平均応力効果が調べられている。 中村眞実君と土屋圭一郎君の論文では、切欠き材の疲労限度に及ぼす平均応力効果が調べられている。この論文では、高強度ボルトの超音波疲労試験結果を示しており、実験方法は伊藤淳司君が成功していたものである。 藤井達也君の論文では、Ni基鋳造合金の疲労強度に及ぼす平均応力効果が調べられている。 小林大紀君の論文では、SUS630鋼の疲労強度に及ぼす平均応力と応力集中の影響が調べられている。
疲労き裂進展
 超音波疲労試験機を用いた疲労き裂進展の実験は、小川が1981〜1983年に修士論文として取り組んだ疲労き裂進展下限界の研究において、実験的な制約から到達できなかった速度領域に踏み込むことができるものである。なお、ここでは貫通き裂の進展特性とする。
 2014年度修士修了の中村勇太君が、アルミニウム合金の超音波疲労試験によるき裂進展試験を行なった。乾燥空気中では明瞭な下限界特性を示すが、湿潤大気中では極低速のき裂進展が認められた。この挙動は鈴木俊平君によって確認され、論文として発表されたのは、2019年の 加藤俊輔君、鈴木俊平君および中村勇太君の論文である。この間に、Ni基鋳造合金について実験を行ない、 櫻井啓吾君と宮井悠真君の論文を2017年に発表している。アルミニウム合金の研究は、引き続き行なわれて 河野右近君と深田直也君の論文を2020年に発表している。

参考文献

(1)
金属材料の超音波疲労試験方法(委員長:小川武史, 他9名),日本溶接協会規格,日本溶接協会,WES 1112,p.36 (初版:2017-3、改訂版:2022ー3). 英訳版