荷重漸増試験
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はじめに
- 荷重漸増試験とは、試験力を連続的または段階的に増加させて、試験片が破断した時点の試験力および変形状態を用いて材料強度を評価する方法である。鉄鋼材料の水素適合性評価に、低ひずみ速度引張試験(Slow Strain Rate Technique、SSRT)が用いられており、荷重漸増試験の一例である。一般的な引張試験では、試験機クロスヘッドの変位速度は0.5 mm/min程度であるが、SSRT試験では0.1 mm/min 〜 0.0001 mm/minが用いられる。引張試験では数分で降伏するところ、SSRT試験では5〜5000倍の時間をかけて引張負荷を行なっている。その目的は、環境効果などの時間依存型破壊の影響を評価することにある。疲労破壊も時間依存型であることから、繰返し荷重範囲を徐々に増加させる荷重漸増試験が考えられるが、コーキシング効果という厄介な問題がある。
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疲労き裂進展試験
- 小川が1980年に卒業研究で取り組んだ研究は、疲労き裂進展の下限界特性を求める方法に関するものであった。
小川の学会論文第1報では、き裂が進展するに伴って荷重を漸減し、き裂進展が停止するまで実験を行なう応力拡大係数範囲ΔK漸減試験で下限界特性を測定する実験を行なった。この実験方法は、
ASTM規格(1)に従ったものであるが、より効率的な方法はないかとΔK漸増試験を行なったのが図17である。き裂進展特性にもコーキシング効果のあることがわかった。問題のあることは承知の上で実験を続け、
小川の学会論文第5報にたどり着いた(2)。応力比が高く、き裂閉口の影響がなければ、コーキシング効果の影響は小さいことがわかり、30年以上後に、
櫻井君の論文、
加藤君と鈴木君の論文および
河野君と深田君の論文で役に立った。これらの研究では、一定のΔKを所定の繰返し数まで負荷した後、き裂進展が認められなければ段階的にΔKを漸増する試験を行なったが、ΔKを連続的に漸増する試験が簡便かつ有用ではないかと考えている。
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疲労強度評価
- 平滑試験片のS-N曲線を求める場合、顕著なコーキシング効果はオーステナイト系ステンレス鋼で発生する。
金原大悟君の論文では、疲労限度の1.5倍を超える応力振幅でも、107回の繰返し数まで疲労破壊しない場合が認められた。このように、繰返し荷重下で硬化する材料のコーキシング効果は顕著である。一方、セラミックスのように繰返し硬化が生じない材料では、コーキシング効果の影響はなく、
簡便評価法を考えることができる(3)。繰返し負荷を加えると強度低下する(疲労する)が、応力腐食割れの有無が製造工程の違いにより異なることが、
米津君の窒化ケイ素の論文で明らかになった。一方、応力腐食割れは起こすが、繰返し負荷を加えても全く強度が変わらない(疲労しない)材料の結果が、
米津君の多孔質炭化ケイ素の論文で示された。破壊確率を含むP-S-N曲線の予測も可能である。
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応力腐食割れ
- 金属の応力腐食割れSCCには、竹本幹男先生との共同研究として研究を始めた。一般的なSCC試験は、ボルト負荷などで行なわれてきたが、油圧アクチュエータを使ってき裂長さを自動測定する装置を加賀山君が開発した(4)。この装置を使って、
加賀山君の論文では、き裂進展挙動に合わせて応力拡大係数Kを制御した。
黒瀬君の論文および
井上君の論文では、疲労き裂進展試験で用いられるK漸減試験を行なった。その後、本田技術研究所との共同研究が始まり、高圧水素容器のライナーに用いるアルミニウム合金のSCCに取り組んだ。
寒川君と吉田君の論文では、K漸増試験によるSCC特性を測定した。ボルト負荷のSCC試験も組み合わせて、
渡邉君と寒川君の論文では、湿潤ガス応力腐食割れHG-SCCの評価方法を確立し、
HPIS E103の基礎となった。
参考文献
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(1)
- ASTM E647, "Standard Test Method for Measurement of Fatigue Crack Growth Rates"
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(2)
- ΔK漸増試験における疲労き裂進展および下限界特性の評価 (小川武史,小林英男, 戸梶惠郎),日本機械学会論文集 A編,Vol.51, No.472,pp.2771-2776 (1985).
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(3)
- セラミックスの繰返し疲労強度の簡便評価法(小川武史,河本 洋,白井毅一),日本機械学会論文集 A編,Vol.64, No.623, pp.1826-1830 (1998).
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(4)
- 黄銅の応力腐食割れ進展特性の評価 (加賀山浩司,六角屋裕之,小川武史,竹本幹男), 材料試験技術, 日本材料試験技術協会, Vol.50, No.3, pp.140-146, (2005-7).