硬さ試験

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はじめに
 硬さ試験は、材料の力学特性を特徴づける方法として広く用いられているが、一般的な硬さ試験から材料特性を推定し、構造解析に用いることはできない。しかし、引張試験が困難な微小な部材、溶接部などのように局所的な力学特性に分布がある部材などの評価において求められるのは、構造解析に用いることのできる材料特性である。すなわち、弾塑性、粘弾性、クリープなどの非線形条件下の応力とひずみの関係式を求めることが必要である。そこで、計装化押込み(インデンテーション)試験の有限要素法(FEM)解析などに基づき、弾塑性特性、クリープ特性および粘弾性特性を推定する方法について検討してきた。
弾塑性特性
 弾塑性特性は、2004年に 大野卓志君の論文として発表した。多くの構造材料に適用できることを 米津明生君の論文で示したが、軸受鋼のように高強度な材料への適応できるように、 小森貴史君の論文で改良した。齋藤裕樹君が全般的にFEM解析を再検討し、中島弘毅君が圧痕寸法の測定から弾塑性特性を予測できるようにし、 中島弘毅君および齋藤裕樹君の論文を決定版として発表した(1)。さらに、降伏伸びへの対応と溶接部への適用例を 中島弘毅君の論文として発表した(2)
クリープ特性
 クリープ特性は、1997年に大清水和憲君がはんだの硬さ試験として研究を始めた。宮本 輝君が引継ぎ、 宮本君と大清水君の論文として発表した。宮本君が研究を継続し、2002年にノートン則を予測する方法を 宮本君の論文として発表した(3) 小山直哉君の論文では、3次元FEMで宮本君の方法を検証し、低温の測定も行った。 加賀良太君の論文では、多くの鉛フリーはんだを集めて実験して比較した。 纐纈英之君と高橋恭平君の論文では、細線はんだのクリープ試験結果とインデンテーション法の結果を比較した。 西山達也君が加わった論文では、ナノインデンテーション法の結果を加えて考察した。 西山君の金はんだの論文は、インデンテーション法のメリットが際だった。 中村崇諒君の論文は、実用的な観点から有用な検討内容であったが、他の対象に拡大できなかった。
粘弾性特性
 粘弾性特性は、2007年度から小川研助教となった 坂上賢一先生(現・芝浦工業大学 教授)が取り組みを開始し、 岡崎信平君の論文を発表した(4) 井澤友朗君の論文として複合材料に適用した。坂上先生は研究を継続しており、精度向上が期待できる。
寸法効果
 硬さ試験の寸法効果についての検討は、 纐纈英之君と高橋 恭平君の論文で行なった。纐纈君は微視組織毎のクリープ特性を評価してバルク特性と比較した。高橋君は細線はんだのクリープ試験を行ない、集合組織の影響を明らかにした。
 弾塑性特性については、圧痕の深さが約1μmよりも小さい場合、硬さが大きく測定される。これは、硬さの寸法効果と呼ばれている。以上に示した材料特性の予測方法においても、硬さの寸法効果は必ず影響を及ぼす。この原因については、圧子先端の鈍化などが指摘されていたが、
宮崎裕久君の単結晶Niの論文により、圧子先端の鈍化がなくても寸法効果は認められ、寸法硬化の原因がGN転位であることを明らかにした。さらに、 宮崎裕久君の単結晶Tiの論文により、寸法効果の異方性が観察された。寸法効果の補正方法が今後の課題である。

参考文献

(1)
硬さ試験による炭素鋼の局所力学特性の推定と配管溶接部への適用(中島弘毅,齋藤裕樹,蓮沼将太,小川武史),圧力技術,高圧力技術協会,Vol.54, No.1(2016-1), pp.16-24.
(2)
鋼板溶接部の引張変形挙動の測定と局所力学特性に基づく強度評価(中島弘毅,蓮沼将太,小川武史,山谷真和,櫻井一弥),圧力技術,高圧力技術協会,Vol.55, No.6 (2017-11), pp.303-312.
(3)
圧子圧入法による鉛フリーはんだの力学特性の予測(宮本 輝, 小川武史, 大澤 直),材料,Vol.51, No.4, pp.445-450 (2002-4). 英訳版
(4)
インデンテーション法による粘弾性特性の評価と時間−温度換算則の適用(坂上賢一,岡崎信平,小川武史),日本機械学会論文集 A編,日本機械学会,Vol.75, No.756, pp.1045-1050 (2009-8).