日本材料学会コラム〜ドライブレコーダ〜
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ドライブレコーダ(1):バイク事故
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幸いなことに軽傷でしたが、交通事故の被害者となったことがあります。大学院生の頃、当時中央分離帯のなかった環状七号線の追い越し車線を
CB250Tで走行中、Uターンしてきたタクシーと衝突し、対向車線に飛ばされました。今でも、衝突から空中を漂い、対向車線に横たわるまでの記憶は鮮明に残っています。タクシーの運転手は客を降ろした後、私に「大丈夫ですか?」、私は「大丈夫なわけないだろう!早く警察を呼べ!」と怒鳴りました。救急車で病院に行って打ち身の診断を受けて警察に行くと、警察官が「運転手は車線変更だと言っているよ」、運転手は「ごめん。仕事がなくなるから」です。タクシー会社の交渉役は怖い顔でしたが、10対0の過失割合を認めてくれました。しかし、このようにして交通事故の事実は歪められます。真実は神のみが知るでは困るのです。
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ドライブレコーダ(2):どら猫 -
交通事故から四半世紀となる2006年に、ドライブレコーダ
(株)ホリバアイテック「どら猫2」を約4万円で購入し、交通事故の事実が歪められる心配はなくなりました。加速度センサーが設定値を超えると衝撃と判断し、ピピッと音がして15秒前から5秒後までの映像を記録してくれます。当時の愛車はヴィッツRS 5MTでした。「どら猫2」のマニュアルに従って標準の加速度値を設定して走り始めると、発進と停止のたびにピピッと鳴いて録画されます。「どら猫2」に運転が下手と馬鹿にされているようです。軽量で硬いサスのヴィッツに標準設定は通用しないと気を取り直して、正常な運転なら衝撃と判断しないギリギリの設定を見つけ出し、「どら猫2」と仲良く暮らせるようになりました。
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ドライブレコーダ(3):運転技術 -
「どら猫2」は厳しく運転技術を判定します。坂道発進で半クラッチとハンドブレーキ解除のタイミングが少しでもずれると、ピピッと鳴きます。急ハンドルは、もちろん御法度です。停止直前にはブレーキを緩めて、停止時の加速度がスムーズに零になるようにする必要があります。シフトダウン時には、ダブルクラッチ(ニュートラルでクラッチを繋ぎエンジンを吹かす操作)で回転を合わせます。最近の車はシンクロがしっかりしているので、クラッチ操作一発のブリッピング(クラッチを切ってエンジンを吹かす操作)をすれば良いようです。高級車には、オートブリッピングもありますが、
機械任せにしないのがマニュアル運転の醍醐味です。1速ずつシフトダウンするのが基本ですが、5→3速のシフトダウンが必要な時もあり、回転数の計算で脳がフル稼働しています。やはり、老化防止にはマニュアル運転が推奨されます。
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ドライブレコーダ(4):動物に注意 -
最近、熊や猪との交通事故が多発しており、ドライブレコーダ映像が報道されています。獣たちに交通ルールやマナーを教えることは不可能です。「どら猫2」も全力疾走する猫やイタチを記録しました。プリウスが猫の横断に遭遇した時には、急ブレーキでシートベルトのプリテンショナー(巻き上げ機能)が作動しました。スペインの山の中を走っていた時、前から放牧を終えた
茶色牛の大群が道一杯に広がって、のんびりと私の方に向かってきたことがあります。仕方なく車を止めて、やり過ごすことにしましたが、車外ではとんでもないマナー違反が繰り広げられていました。彼らの通り過ぎた後、道一面が忌まわしい物体で覆われていて、踏まずに車を動かすことは不可能でした。乗っていたのがレンタカーで、本当に良かったと思います。
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ドライブレコーダ(5):余計なお世話 -
「どら猫2」のヒアリハット動画はPCに記録されて、詳細な検討が行われます。猫の横断時に衝撃が検知された時が零秒と記録されますので、ブレーキの反応は適切だったかを振り返ります。その中で、余計なお世話に注意しなければいけない事例がありました。いわゆるサンキュー事故ですが、後方からすり抜けてくるバイクや自転車への注意だけでは不十分です。片側1車線で右側のバス停を過ぎたところにある右折車線のない交差点で、バスが右折車にブロックされているのを発見した私は、車間を広めにとって減速し、パッシングで右折を促しました。右折車が動き始めたので、私が加速を開始した瞬間、左側を歩いていた会社員が私の車の前に飛び出して道を渡りました。バスに乗りたかったようです。私が急停車すると信号が黄色に変わり、交差点を通過できませんでした。パッシングにもリスクがあります。会社員と衝突していたら、余計なお世話では済まないところでした。
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ドライブレコーダ(6):技術の進歩 -
「どら猫2」は、2006年から2022年までの16年間に渡って、私の運転を見守ってくれましたが、プリウスからヤリスへの乗り換えに際して引退しました。新型に名前はなく、トヨタ純正です。「どら猫2」は前方の画像だけでしたが、トヨタ純正は、前後の画像に加えて、車内の音声、GPS位置情報、時速及び前後左右の加速度情報を常時記録していて、もちろん、衝撃の前後は保存版の記録が行われます。そして遂に、事故が記録されてしまったのです。時速5km/h、最大加速度0.5G、自宅マンション入口で、高さ約40cmの縁石がヤリスの左側ドアを、ゴッゴッゴーという音を立てて削りました。ドライブレコーダの解析で原因が特定され、進入経路変更の対策を取りました。物損事故の申請をして、対物保険約50万円でヤリスは元どおりになりました。心の傷は治療中ですが、真実を残すためにドライブレコーダは最高です。それでは皆様、ご安全に!
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