壊れる物の叫び

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消費者安全調査委員会からの一葉 第3号(令和5年1-4月期) に掲載


 物が壊れるときには音が出ます。ポキリと折れる木の枝は、ボッキリと折れる枝よりも細くて脆そうです。なぜ音が出るのかというと、壊れる直前まで加えられた力によって物に蓄えられていたエネルギーが解放され、音という振動エネルギーに変換されるからです。だから、壊れるときの音は、蓄えられたエネルギーの大きさと、壊れ方によって異なるのです。壊れるときに発生した音の波形を調べると、破壊現象を推定することができます。
 地震は振動周波数が低いので、音としてはあまり聞こえませんが、地下の岩石が壊れて起きた振動が地表に伝わってきて発生します。振動の伝搬速度と複数地点への到達時間差を使って震源の位置を求めることができます。同じような原理を使って、工場のタンクは音のセンサー(マイクのようなもの)を沢山付けた耐圧試験で壊れそうになっている場所を見つけます。実は人間の耳も同じ機能を持っています。左右の耳に聞こえる同じ音の時間差から、音源の方向を認識しています。マイクが1つでも、壊れた時に出た音の発生場所を求めることができます。1985年の日航ジャンボ機墜落事故では、尾翼の壊れた音が機体と客室空気の2経路を伝わってコクピットのボイスレコーダに記録されていました。機体の金属と空気中を音が伝搬する速度が異なるので、音の到達時間差でコクピットからの距離を推定できます。
 音を物の検査に使うこともあります。強く締め付けられたネジと緩んだネジの頭をハンマーで叩くと異なる音色の音が出ます。コンクリートの表面やタイルも、剥がれそうになっていると叩いたときの音色が異なります。ハンマーを超音波探触子に持ち替えてお腹に当てると、腎臓結石が見つかることがあります。超音波エコー検査は、体内に超音波振動を送り込み、反射してきた振動から断層写真が作成されています。  物が壊れる前に音が出ることがあります。土砂災害の前兆現象として地鳴りが発生すると言われていますが、既に局所的な変形が開始して発生している音です。大規模な地滑りとなる前に、小さな崩壊が始まっているのです。自転車や自動車でも、走行中にギシギシと異音の聞こえることがあります。これは、緩んだネジや剥がれた接着部が擦れて出る音です。これらが自然治癒することはありません。使い続けていると、やがて本格的に壊れてしまうことになります。
 このように、音は色々な情報を伝えてくれています。壊れる物から発せられる叫びに耳を傾けてみて下さい。少しだけ安全に生活できるようになります。