研究内容
1. 基材一体材の曲げを用いた多孔質溶射皮膜のX線弾性定数評価
近年,原子力発電所の再稼働停止に伴い電力需要がひっ迫していることを背景に,火力発電所が稼働率のまま長期的に使用されており,ガスタービン表面を高温環境から保護する遮熱コーティングの亀裂やはく離に伴う事故が生じています.電力の安定的な供給や火力発電の安全な運用のためには遮熱コーティングの損傷寿命の確立が求められています.遮熱コーティングの損傷の把握には残留応力は重要で,残留応力のその場測定ではX線回折法を用いた手法が有効です.X線残留応力測定には応力定数としてX線弾性定数が必要になりますが,本研究では基材に溶射膜を製膜したままの実用に供されるものと同条件下で正確なX線弾性定数を評価します.
2. インデンテーション法に基づく多孔質溶射皮膜の機械的特性の解明(2023年度JKA研究補助)
・この研究は,競輪の補助を受けて実施しました.
2-1. インデンテーション試験による局所力学特性評価
遮熱コーティングの異方性を考慮した正確な強度をインデンテーション法により評価し,また異方性の発現メカニズムを解明します.厚さが0.数mmオーダーの遮熱コーティングの強度特性を,超微小硬度計を用いたインデンテーション試験により評価します.遮熱コーティングの面内方向と面外方向から溶射皮膜にダイヤモンド製の圧子を押し込み,その際の押し込み荷重と押し込み深さから各方向の応力ひずみ線図を取得します.また,X線回折法を用いて局所応力を評価します.その結果,面内方向が高強度になる溶射皮膜の強度特性を明らかにします.
2-2. 溶射皮膜の損傷因子の評価
遮熱コーティングは溶射により成膜される溶射皮膜であり,空孔やき裂,成膜中の高温環境下で生成される酸化物などの因子により強度特性が低下することが示唆されていますが,その詳細な影響は不明です.本研究では電子顕微鏡による微視組織観察や,エネルギー分散型X線分光法を用いた元素分析結果を行いっています.その結果を強度特性と比較することで強度特性に支配的な因子を明らかにすることを目指しています.
2-3. 有限要素法を用いた力学特性発現機構の解明
多くの欠陥を有する溶射皮膜の局所力学特性を明らかにするために,有限要素法数値解析を用いて応力やひずみ分布を解析し,破壊の起点となる空孔の形状や介在物等の因子を明らかにすることを目指しています.