二輪狂時代

(岐大ひろば 第19号,1993年3月20日発行に掲載)


大学に入ると,すぐに体力測定があった.その頃は1500m4分台で走れたので,ラグビー部から誘われたが,勧誘にきた先輩が臭かったのでやめた.サイクリング部が何となく面白そうだったので決めた.部室はやはり臭くて後悔したが,我慢することにした.

サイクリング部の主たる活動は,春合宿,夏合宿と称するキャンピングツアーである.春は九州や四国,夏は北海道や東北を6人程度のチームを作って2〜3週間旅行するのである.合宿中は何を食べても旨いが,メニューは超ワンパターンだ.朝はふりかけパンと紅茶.食パンにマーガリンを2mm程塗った上にのりたまをたっぷり掛ける.ふりかけは,夕食の料理に失敗した場合のバックアップにもなる.昼はインスタントラーメン2人前に魚肉ソーセージが付く.標高の高いところでは要注意.沸騰温度が下がり,ラーメンが煮えないのだ.乗鞍で喰ったラーメンは酷かった.夜はカレーかシチューとビール.十分な量を獲得するには,如何に速く食べるかが勝負の分かれ目となる.大胆にも,ピーマンの肉詰めに挑戦したとき,誰も卵やパン粉の必要なことを知らなくて,野菜炒めになった.定番を外すには勇気が要る.

サイクリングの強みは,遭難しないことだろう.山に行っても,結局道路から外れない.どんなに天気が悪くても,「どうにかなるさ作戦」を使えば問題なく解決でき,それなりに楽しめる.困るのは洗濯だ!天気が良ければヒラヒラさせて一日走れば乾くが,雨が続くと「旅のパンツは穿き捨て」にし,現地調達を余儀なくされる.同じパンツで何日間過ごせるかが,一つのステイタスである.

サイクリング部はなぜか勝負を好む.最も重要なのは,富士スバルライン・タイムトライアル(富士山五合目までの標高差約1500m,距離30kmのレース).レースの前夜,河口湖ユースホステルに集結し,舌戦の火蓋が切って落とされる.このレースで,口ほどにもなく惨敗すると,以後一年間「リキ無し」のレッテルを貼られることになる.楽しいのは,サイクル・オリエンテーリング.ルールは普通のオリエンテーリングと同じだが,会場は50km四方程度でかなり広い.山あり,谷あり,行き止まりありのポイントを設定し,如何に多くの部員を罠にはめるかが,問題を作る幹事の力量である.

大学院の頃,ナイトランに凝った.夜東京を出発し,九十九里や富士五湖で朝日を迎える.ナイトランはトラブルが多いので楽しい.パンクしても,暗くてなかなか修理できないのだ.パンク修理の手元をみんなの懐中電灯で照らしてあげる.修理に悪戦苦闘するのを見物しながら,修理技術の議論となり,必ずヘタクソだとの結論に達する.一度だけ,ソロでナイトランをした.寂しいだけで全然面白くなかった.

一輪車に浮気をした.数人が特訓の末モノにし,大学構内を乗り回った.湘南海岸で行われた一輪車マラソンに出場し,10kmを約1時間で完走できたが,その晩の風呂では,股間に湯がしみた.最近はトンと御無沙汰している.一人で乗るのは,結構恥ずかしい.

現在も3台の自転車を所有し,休日だけでなく,通勤や昼休みにも楽しんでいる.大学まわりの堤防道路も悪くないが,5万分の1の地図を頼りに,山道を辿るのは最高だ.野兎や栗鼠に遭遇することもある.一時,雪道に凝った.少しの油断で転倒する緊張感が醍醐味だ.いつか,昔の仲間を岐阜に集めて,大OBラリーを開催したいと思っている.