審査委員
最近のヒット商品は、おしなべて小さい。特に、携帯する電気製品は信じられないぐらい小さくなった。携帯音楽プレーヤー、携帯電話、PDAなどである。これらの電子機器は、一見機械工学と関わり合いがあるとは思えないが、壊れないように作るために機械工学が重要な役割を担っている。携帯機器の中には集積回路があり、多くの部品がはんだ接合されている。無数にある接合部の一つでも壊れて断線すれば、機器全体の機能が失われたり、誤動作を起こしたりすることになる。機械工学では、材料の強さを正確に測定することによって破壊しない設計を行う。しかし、一般的に材料の強さは寸法に依存することが多く、従来の機械工学で用いてきた手法は、微小な部品材料にそのまま使うことが出来ない。この問題を解決できる可能性のある手法が、本受賞業績の「インデンテーション法」である。
インデンテーション法とは、硬いダイヤモンドの圧子を材料表面に押しつけ、その際に発生する変形挙動の解析をもとに対象材料の力学特性を推定する手法である。この手法の原型は材料の力学特性の簡便評価法として古くから用いられてきたが、これまでは測定結果が「定性的」な意味しか持ちえず、種々の材料間の相対的比較などに、その適用が限定されていた。一方、近年のコンピュータ技術の急速な発展により、機械構造物の強度安全性評価に数値解析が広く用いられるようになったが、この場合の数値解析には材料の「定量的」な力学特性を組み入れることが不可欠である。定性的な意味しか持ち得なかったこれまでのインデンテーション法と数値解析手法を組み合わせることにより、材料の力学特性評価に定量的な意味を加えることができれば、より精緻かつ詳細な実験的・数値的解析が可能となる。さらに、アコースティック・エミッション法や腐食電位揺動法などの最新技術を組み合わせ、高度なハイブリッド破壊解析法を構築することができれば、前述の微小な材料の材料強度の評価に加えて、近年社会問題となっている老朽化設備の健全性・安全性評価手法の進歩にも資することが大である。
インデンテーション法の優れている特性の一つとして、微細あるいは極薄な部品材料の力学特性評価を行うことができる点があげられる。近年、ダイヤモンド圧子を材料に押しつける力を極めて小さく制御して、ナノメートル領域での材料の力学特性を評価できるようになった。その結果、電子デバイスなどに使われている極めて微細なはんだ接合部などにおいても定量的な力学特性評価が可能となってきた。
本受賞業績は上記を研究背景としつつ、独自の工夫による定量的な力学特性評価法を開発するとともに、それを微細かつ極薄材料に適用し、電子デバイス中の実機はんだ接合部や薄膜コーティングの力学特性評価に取り組んできたものである。主な研究業績は下記の4項目に集約することができる。
(1)はんだのクリープ特性および微細な実機はんだ接合部の力学特性の評価
(2)窒化チタンおよびダイヤモンドなどの硬質薄膜の強度評価
(3)高分子材料および弾塑性材料の局所的な力学特性評価
(4)アコースティック・エミッション法や腐食電位揺動法などと組み合わせたハイブリッド破壊解析法による腐食環境中の強度評価
インデンテーション法を基にした材料の新しい力学特性評価法の確立は、従来にない先駆的な研究業績である。特に、研究項目(2)および(4)に関連した研究業績は、平成17年度日本材料学会論文賞を受賞している。
以上述べたように,本研究は諸機器の小型化・微細化に伴って生ずる工学問題に対する積極的な取り組みであり,これからの機械工学分野材料評価技術への応用・展開に大いに貢献できる優れた本学独自の研究であり,将来の更なる進展が楽しみである.